Runner in the High

技術のことをかくこころみ

フロントエンドとしての/サーバーサイドとしての"フルスタック"さ

最近思うがなんとなくフルスタックと一口に言っても、ソフトウェアエンジニアにおける"フルスタック"にはサーバーサイドとしてのフルスタックと、フロントエンドとしてのフルスタックがあるような気がしている。この言い方が妥当かどうかは分からない。

サーバーサイドとしてのフルスタックとは、たとえばRailsやLaravelだったりGoのRevelなどのテンプレートエンジンを用いてフロントエンドまで一気通貫で開発ができるものがそれにあたる。

一方で、フロントエンドとしてのフルスタックとはNext.js/Nuxt.jsなどの登場に端を発し結果的にBlitz.jsRedwoodJSなど誕生に繋がったものを指している。両者はフルスタックの思想が根本的にサーバーサイド由来のものとは異なり、フロントエンドの実装を主としてサーバーサイド実装を抽象化することで、実質的にフロントエンド開発のみでサーバー側実装も含めWebアプリケーションを完成させようとしている。

かつてSails.jsやLoopback.jsなどのサーバーサイドJSフレームワークが出たあたりでよく見た「JSがあればフロントもサーバーも開発できる!」みたいな宣伝文句が若干近いような気もするが、今思えば仮にサーバーサイドがJSで書けるとしても純朴なSPAとAPIサーバという形である限り、サーバーとの通信プロトコルの検討や、エンドポイント命名、認証基盤実装など、アプリケーションが完成するまでの道のりと考慮事項はRailsのようなフルスタックフレームワークで開発するよりも明らかに高く付く。SPAが顧客要望として本当に必要なら仕方ないが、やる場合にはこれらを背負っていくことになる。

サーバサイドなフルスタックフレームワークでは難の多かったフロントエンドの自由度を獲得する手段としてAPIサーバ+SPAの構成が生まれたものの、サーバーからフロントまでを一気通貫しないことで生まれる追加の開発工数、開発者間でのコミュニケーションコストやドキュメンテーションコストは逃れられない課題になってしまった。

Blitz.jsやRedwoodJSが実現しようとしているサーバーサイド実装の抽象化は「フロントエンド開発の自由度も維持したいがフルスタックの良さも捨てたくない」というこれまでには無い目的追及の過程で生まれた前述の課題に対するひとつの解なのではないか。どんな組織であっても企業体である限り「できるだけ少ない工数で開発したい」というのは共通の目的であるし、それを叶えるのが"フルスタック"であることに違いない。

これまではフルスタックといえばサーバーサイドが中心なイメージがあったが、クラウドネイティブなインフラの成熟やフロントエンド・フレームワークのサーバーサイド領域への進出、高性能なコンピューターリソースの普及によって、これまでにない形でパワーバランスに変化が起きているような印象がある... とはいえ、仮にフレームワークで抽象化されたとしてもサーバーサイドという領域が消えるわけではないので、見方を変えればフロントエンドエンジニアであっても結局はこれまでのフルスタックエンジニアと同じ素養を求められているような気がしなくてもない。