Runner in the High

技術のことをかくこころみ

転職活動でいろんな会社のマイクロサービスと組織を見聞きして思ったこと

転職活動でいろんな会社のエンジニアの人と話して思ったことをマイクロサービスの観点で備忘録がてらメモしておく。

よくあるマイクロサービスの分割軸として、業務機能、ユースケース(動詞)、リソース(名詞)あたりが一般的だが、これらどれもがドメインを構成する要素であるため、マイクロサービスに分割してしまうと結果的にソフトウェアの形がビジネスルールの変化を制限してしまうケースの方が多い気がしていた。実際、規模の小さい開発組織でマイクロサービスやってみました〜からのツラミはそういうのが多いイメージで、よくある「マイクロサービスやったけど逆に開発遅くなった」みたいなとこは上で挙げたような粒度の切り方をしている印象がある。

この件に関して、去年末の転職活動のタイミングでいろいろな人に話聞いてみた結果、実際にマイクロサービスでうまくやっていそうな組織は、上で書いたようなドメインを構成する要素でマイクロサービスをやるのではなく、プロダクト開発のための内製プラットフォームを作るような粒度としてのマイクロサービスを取り扱ってそうな印象を持った。

あとは、そもそもアプリケーションを分離しているパターンもそこそこあったが、これはマイクロサービスと言っていいのか謎なので一旦無視する。

内製プラットフォームとは

雑にいうならばドメイン固有ではない範囲を分離してマイクロサービスにしているイメージ。

これは、いわゆるDDDでいうところの汎用サブドメインに相当するものになる。例えばアプリケーションで使っているサードパーティSDKクラウドリソースがあるとして、それを社内で独自のチームを組成して作らせるような雰囲気。メガベンチャーだとそういうチームが大抵ある気がしていて、例えばLINEのVerdaとかはプラットフォーム超えてクラウドなのですごい。

内製プラットフォームを作るようなチームの存在を維持するためには、それ相応のリソースが必要であり、そこに投資できるだけのプロダクト価値と顧客のニーズも必要。なんなら開発組織の規模に比例すると思う。プロダクトがうまくいっていて、開発に投資できる組織はやはり規模が大きいし、だからこそ内製にアドバンテージが出る。

逆に、無駄に早いフェーズでこういうチームやマイクロサービスを組成して抽象度を間違えると、開発組織の中で無駄にコミュニケーションが必要になったり単なる受発注をするだけのチームがいくつも生まれて地獄絵図になる。マイクロサービスの切り方もおかしくなる。

個人的な解釈

プロダクトとしての独自性を作るために業務機能、ユースケース、リソースが変わることは頻繁にあるので、この変化に技術的な都合で対応できないのは本末転倒。正直なところ、プロダクトが持つ機能の独自性で競合とバトルしている時点でそのプロダクトはジリ貧だと思うが、大抵のプロダクトはそうならざるを得ないのでドメインが定まらないのは仕方ないし、エンジニアリングの面でも対応するしかない。この状況ではドメインは常に不安定なのでマイクロサービスとして分割するには適さない。おそらく、業界のプラットフォーマーと言えるくらいのレベルにならないと安定することはない気がしている。

マイクロサービス・アーキテクチャ1版でもドメインへの理解が低い場合にはマイクロサービスは適さない」と書かれていたが、そもそもドメインが"理解できた"と言えるようなエウレカ的瞬間はプロダクト開発においては形を変えつつ小刻みに連続して現れるのであって、ゴールテープのような"究極の理解"のタイミングがあるわけではない。マイクロサービスであることが連続的に発生するドメイン理解と変化のスピードを遅くする原因になっているのならば、それはむしろマイクロサービスがプロダクト成長の邪魔をしている状態と言っていい。そのような事態を避けて、明確に切り離せそうな単位でマイクロサービスの分割をするならドメインかそれ以外か」くらいの粒度になるわけで、そうなればマイクロサービスとして切り出せる選択肢は汎用サブドメイン以外ない。

みんながみんな内製プラットフォーム的なものを作るチームを持つべきかというと、それは当然なんか違う気がしていて、高度な抽象化をするためにはそれ相応のメリットを感じるだけの規模と価値を持つプロダクトとビジネスの存在が前提になる。あと一般に汎用サブドメインといえば認証や通知*1とかがよく出てくるが、そういうのはサードパーティのプラットフォームを使うだけで十分なことも多い。

結局、ギリギリまで外部のサードパーティ・プラットフォームを使い続けて、とうとうそれがプロダクトのニーズ似合わなくなってきた... という時に初めて、ようやく自前でマイクロサービスとして内製するというレベルでよいのではないか。そして、ある程度うまくやっていそうなところはそういうやり方をしていそうな印象を持った。

PS: この記事書いてて思ったが、過去に書いた以下の記事とかなり内容が近かった。

izumisy.work

*1:なお、通知をマイクロサービスとして抽象的に切り出そうとすると意外に難易度が高いという話がある 通知マイクロサービスはアリ?ナシ? - Speaker Deck